七人の側近は全て揃った。

しかし、その第一声はとても世界を恐怖の奥底に叩き込む『六王権』の側近とは思えなかった。

黒の書二『六師』

「げ〜ほっ!!」

それは盛大に咳き込む声だった。

「げほっげほっ!!あ〜埃臭え」

そう言って現れたのは二十代半ばと思われる軽薄な印象を与える青年だった。

くすんだ金髪の前髪が片目を隠し、黙って立っていればそれなりの美青年と言えた。

「土臭いし黴臭いしよ。ったくきついったらありゃしねえ」

そう言って短くカットした金髪を掻き毟る。

「仕方あるまい。我らは千年近い時をこの地に封じられていたのだ。あの時殺されなかっただけ幸運と呼ぶべきではないか?」

続いて現れたのは同じ年代のまったく対照的な赤毛を短く刈り上げた青年。

口調、身にまとう空気それは剛直そのものを表していた。

「とは言ってもよ〜美味い酒は無い、美味い物も食えない。更には良い女もいないんじゃあ愚痴も言いたくなるもんだぜ」

「復活して早々そんな事言っていると『闇師』の姉ちゃんに完全にそっぽ向かれるよ、兄ちゃん」

そんな青年をおちょくる・・・いや、完全に虚仮にした口調で言うのは十歳にも満たないだろう少年。

「なんだと、このガキャ!!」

「いたたたたたた!!」

こめかみを両の拳で挟んでぐりぐりする。

「おいそこまでに・・・」

先ほどの赤毛の青年の言葉を遮るように一つの人影が現れる。

「止めなさい!!『光師』が痛がっているでしょう『風師』!!」

そう言って『風師』と呼んだ青年の頭をはたくのは黒い髪をショートカットにした小柄な女性。

その口調、動作は躍動に満ち外見以上に内面からの美しさを出した健康的な美女だった。

「っっつ〜本気ではたく事ねえだろうが『闇師』!!ただでさえでも馬鹿力だって言うのに・・・」

「へえ・・・何か行った??」

「い、いえ・・・なんでもありません」

「おっこられてんの〜」

あははと笑いながら更におちょくる。

「もう、『光師』も『風師』を煽らないで。あら?『炎師』そう言えば『水師』と『地師』は??」

「ああご夫妻なら向こうに」

「お〜お〜、お熱い事で」

視線の先では腰にまで伸ばした黄金の髪が印象的といえる絶世の美女と呼んでも差し支えない女性が大柄な無骨な印象の男性と抱擁を交わしていた。

「ったく・・・あの万年新婚夫婦は」

「しかしな、『水師』も『地師』も千年近く触れる事も出来なかったのだ。『風師』あれ位は大目に見てやれ」

「そんな事言ってると『炎師』、どんどんエスカレートするぜあいつら。・・・っと言っている間にキス始めたぞ。あの分じゃあ、ここでやる事やるのも・・・へごっ!!」

「まったく、『光師』の前で情操に差し支えるような事言わない!!」

まるで漫才を思わせる奇妙な光景が続く。

そこに

「さて・・・もう良いか?」

「へっ??旦那か」

「あっ・・・兄上!!」

「これは『影』殿」

「兄ちゃん!!」

「お久しゅうございます」

「『影』様お変わりなくようございました」

目の前に現れた・・・というよりようやく全員の視界に入った『影』に『六師』がそれぞれに歓声を上げる。

『水師』と『地師』も抱擁を解いている。

「相変わらずで安心した」

あのような大騒ぎを見ても『影』の表情には曇りは無い。

彼らは遥か昔からこの様な調子であった。

彼にとってこの光景は懐かしい風景であった。

「・・・皆久しいな」

そこに『六王権』が姿を現す。

「「「「「陛下!!」」」」」

『六王権』の姿に一斉に傅く五人。

「王様!!」

そんな中『光師』のみが臣下の礼をとらず『六王権』に抱きつく。

「『光師』!!いつも言っているでしょう!!陛下の前ではまず・・・」

「やめとけ『闇師』。どうせあいつにゃあ馬耳東風。聞く耳もたんよ」

「でも・・・」

「それに陛下も『光師』についてはあれを認めておられるのだ。ならば我々がどうこう言える立場ではあるまい」

「そうですが・・・兄上・・・」

なおも言い募ろうとしたがそこに

「皆・・・」

彼らの主君が声を掛ける。

「「「「「「「はっ!(はいっ!!)」」」」」」」

「良くぞ甦ってくれた、礼を言う。そして・・・私は改めて皆に詫びたい。私の力不足でお前達に苦難を与えた事に」

「陛下何水臭い事を仰られるのですか。俺達は俺達の意思で陛下に付き従ったのです。あの結末に後悔はしていません」

『風師』がとても臣下の口調とは思えない言葉で告げる。

見れば他の六人も同じ意思なのかその言葉に肯いている。

口調に不満を持つ者はいたが。

「お前らしいな『風師』・・・私は主命に従い再び人を裁くが、お前達はどうする?今度敗れればその時こそお前達は確実に殺されるだろう。もし平穏に暮らしたいと言う者がいれば遠慮なく申し出よ。咎めはしない」

その語尾に重なるように

「陛下、見損なわないで下さい。俺の意思はあの日と同じ。俺は例え陛下が『来るな』と言われても陛下に従います」

『風師』が口を開く。

「左様です。我ら『六師』陛下にお命を救われた時より陛下にこの身命を捧げる所存」

『炎師』が言葉を繋ぐ。

「陛下が戦いの険しき道を歩むならば」

「我らも喜んで付き従います」

『地師』・『水師』が意思を明確に表す。

「僕だって一緒に戦うよ!!王様も兄ちゃん達も皆大好きだから!!」

『光師』が宣言し

「陛下、陛下が我らに対しての気配り誠に嬉しく存じ上げます。ですが我らにはそれは不要。我ら『六師』喜んで陛下のお供をさせて頂きます」

最後に『闇師』が全員の意思を明確に伝える。

「私の意志は既にお伝えしております通り」

『影』が当然の様に言葉を繋ぐ。

「そうか・・・すまぬな・・・ではお前達の働き期待する」

「「「「「「「ははっ!!(はい!)」」」」」」」

一斉に頭を垂れた『六師』と『影』。

しかし・・・深く頭を垂れたが故に彼らは気付かなかった。

主君の顔色が異常に蒼ざめていた事を。

「ではこれよ・・・」

不意に『六王権』が倒れ付した。

「「「「「「「陛下!!!(王様!!)」」」」」」」

突然の事態に全員が慌てる。

「だ、だ、旦那!!こりゃあどう言う事だ!!」

『風師』が『影』に突っかかる。

「わ、私にも判らん!!」

「王様!!王様!!」

「「陛下!!」」

大混乱の中『炎師』と『地師』が

「皆落ち着かれよ!!」

「ここで騒いでもどうしようも無い。『闇千年城』に陛下を」

と、一喝するとようやくパニックが収まる。

「そうだったな・・・『地師』陛下を」

「承知」







上空に浮かぶ『闇千年城』。

魔術協会などの追手から身を隠す様にその姿は大西洋上空の雲海に潜り込み更には魔術結界で姿を完全に消していた。

その会議の間では『六師』が所定の席に着き静かに待機していた。

既に『六王権』が昏倒してから一日近く経過している。

「旦那はどうだ?」

『風師』が隣の親友に聞く。

「未だに・・・」

「そうか・・・」

いつもは賑やかな『風師』・『光師』も厳粛に待機していた。

それが事態の深刻さを如実に表していた。

そこに『影』が姿を現す。

その姿を認めた『六師』が一斉に立ち上がる。

「旦那」

「兄上、陛下は?」

「今は眠っておられる。そして何故お倒れになられたのかその原因もわかった」

「それで何ゆえに陛下は昏倒されたのか?」

「単純に魔力不足だ」

「「「「「「魔力不足??」」」」」」

「ああ」

声を揃えて問い質す『六師』にそう肯いて『影』は静かに己の席に腰掛ける。

それに倣う様に腰を浮かせていた『六師』も再度腰を落ち着かせる。

「『影』様、陛下はどれだけ魔力が不足なされているのですか?」

代表して『水師』が尋ねる。

「今改めて陛下の残存の魔力量を測ってみたが、最盛期の千分の一しか残っていない」

「な、なんだってそんなに・・・」

「これはあくまでも私の仮説だが聞いてくれるか?」

『影』の言葉に無言で肯く『六師』。

「おそらく陛下は封印されてから今日まで自らの魔力を我らに分け与えて我らの崩壊を防いでいた・・・そのおかげで我らは封印前と何ら遜色ない力を得られたのだと思う。その代わり陛下は衰弱しこの度の昏倒と・・・」

「じゃあ・・・我々の復活の為に魔力をさらに使用した所為で・・・」

「それは違う『炎師』。お前達『六師』の復活はただ陛下が呼び掛けただけだ。魔力を使ったとしても一万分の一で事足りる。それに私の復活には陛下自らの魔力ではなく私の復活を妨げようとした敵の魔力を利用しただけだと聞き及んでいる」

「だ、だが・・・」

それを遮る様に悲痛な声が木霊する。

「兄ちゃん!!!今は責任とか言っている場合じゃないよ!!このままだと王様どうなっちゃうの?」

「そうだな・・・『光師』の言うとおりだ。今の時点では陛下は自らを昏睡状態に置く事により魔力消耗を最小限に抑えているがそれもその場しのぎにしか過ぎない。魔力を早急に回復させるか他から供給しない限り・・・陛下の崩御は免れない」

重苦しい声と共に出されたある種の死刑宣告に全員が沈黙する。

「何か手は無いのか?」

「そうだ!!それなら僕達の魔力を・・・」

「無理だ。そうなれば今度は陛下が無意識に我らに返すだけ。意味が無い」

「ですけどこのままでは陛下は・・・」

「では他より魔力を・・・」

「無理だ、陛下を満たす事の出来る程の魔力など何処にある?仮に世界全域のマナをかき集めても足りんぞ」

そこに『影』が声を発する。

「・・・一つだけ・・・たった一つだけだが手がある」

「「「「「「!!」」」」」」」

その言葉に『六師』が視線を『影』に集結させる。

「『影』殿!!手があるって本当か??」

「ああ、ただし不明確な手が」

「この際贅沢は言っていられません!!」

「左様です。今は僅かな藁でも掴まねばなりませんぞ」

「そうだな・・・全員『天の杯』は覚えているな」

「ああ覚えている。人間共が生み出した魔法の一つだな」

「凄かったよね〜魂魄を実体化させたんだから」

「それが何か?」

「その為の魔法陣が今も一ヶ所残っている。そこから魔力を残らず奪い取る」

「旦那、いい考えだと思うが陛下の身を満たすほどあるのか?その魔法陣に」

「それに事を急に構えてその結果、我らの準備が整わぬ内に全面戦争となる恐れもあるぞ」

『風師』と『地師』がそれぞれの懸念を表す。

「そこが不明確なんだ。まあ最悪でも陛下の総魔力量の五十分の一でも供給できれば良い。そうすれば陛下は昏睡から回復されて陛下ご自身で魔力を回復されるだけの余力が生まれる。それに『地師』の言葉にも一理ある。しかし、ここで傍観して陛下崩御の最悪の事態だけは避けねばならん。少々・・・いや、かなり分が悪いとは思うがここで手をこまねく訳にはいかん。危険だが賭けに出る」

「確かに・・・追い詰められている以上我々に選択肢は無いか・・・」

「なるほど・・・判った。その賭け乗るぜ」

「それで『影』殿、場所は何処なんですか?」

「僕が取ってくるよ!!」

「落ち着け。場所は・・・」

そう言うと、現在の世界地図が全員の前に現れる。

「ここだ」

黒い点が指し示したのは日本の一角・・・今現在『聖杯戦争』の行われている冬木の地であった。

「なるほどなここにその魔法陣があるってのか・・・」

「そうだ。後、同時に陽動作戦も行う」

「陽動??何故に」

「我々が復活した事はすでに人にも知れていよう。陛下昏倒の事実を隠す為偽装の攻勢を行う。少しでも危険の可能性の芽を摘む」

「だがそんな事したらそれこそ藪蛇にならねえか?」

「しかし、行わずに単独作戦では危険度がますのは確かかと・・・」

「確かにそれだと少々厳しい戦いになりそうね」

「仕方ないよ兄ちゃん。分が悪いのも事実だけど勝負に出ないと。兄ちゃんが振られると判っていても姉ちゃんに迫るのと同じでさ」

「『光師』・・・後で泣かす」

「『風師』・『光師』全ては作戦が終わってからにしてくれよ・・・それでどうする?」

「・・・判りました。『六師』全員この作戦謹んで了承します」

「よし・・・それで、少々役割を分担しようと思う。まず『炎師』・『風師』」

「おう」

「はっ」

「お前達にはすまないが陽動作戦を任せたい」

「はっ」

「わかった。で旦那、俺達は何処で暴れれば?」

「この地点に向かって欲しい」

そう言って指し示されたのは欧州のとある一角。

「ここに?」

「一体何があるというのですか?」

「ああ、ここに今現在死徒二十七祖において事実上のトップに位置する、死徒の姫君アルトルージュ・ブリュンスタッドの『千年城』が存在する。ここに強襲をかけて欲しい」

「強襲でございますか??」

「へえ死徒の姫君ねえ・・・初耳だが、その姉ちゃんいい女なのか?」

「まったくお前は・・・女と聞くと直ぐ・・・」

『炎師』が表情を顰める。

それに対して『影』は穏やかに答えた。

「残念だが彼女は今この城にはいない。まだ未確認だが『真なる死神』と言う者の妻となっているそうだ」

「??なんだ?その『真なる死神』って」

「いまだ不明だ。何しろ情報があまりにも錯綜しすぎている。一説には死徒と人間の混血だの悪魔に身も心も売っただのどの情報もいまいち信憑性に欠ける。だが、この『真なる死神』が我らの敵であると言う事と下手をすれば魔道元帥並に手強い敵であろうと言う事は間違いあるまい」

「なるほどねぇ〜そりゃ一片会ってみたいもんだな」

「生半可な覚悟で赴けば大怪我は免れんぞ『風師』」

「その通りだ。それに死徒の姫君は存在しておらぬがかの地には彼女に仕える死徒が三人いる。彼らも二十七祖に組している」

「そうなると我々の相手はその三人・・・」

「そう言う事だ。『炎師』、くれぐれも『風師』を暴走させるな。『風師』も油断せず確実に任務をこなして欲しい」

「判りました」

「わかっているって、旦那」

「頼むぞ。この作戦失敗は許されないのだからな・・・それと『光師』・『闇師』・『水師』・『地師』」

「はい!」

「はい」

「はい」

「・・・はっ」

「お前達は『闇千年城』の維持に回ってくれ」

「え〜っ!!僕達留守番なの?」

「我が侭言わないの」

「そうよ『光師』。『闇千年城』の維持も大切な任務よ」

「判っているけどさ〜」

渋々了解する。

「そんじゃあよ。『天の杯』の方には」

「私が赴く」

「旦那、大丈夫なのかよ。一人で」

「心配は無用だ。お前達が派手に暴れてくれれば敵の目は全て欧州に向く筈。その隙を突く」

「了解した。精々暴れてくるぜ。それで旦那作戦名は?」

「作戦名は・・・十二月二十五日・・・『クリスマス』」

その言葉に全員が嘲笑気味に笑う。

知っての通り十二月二十五日はキリスト教イエスの生誕の日。

それに準え『六王権』復活の為に陽動と『天の杯』略奪の同時進行作戦名を聖人の生誕日をその名とするその皮肉に笑った。

「了解、それじゃあこれから向かうとするか。行こうぜ『炎師』」

「ああ、それではこれより向かいます」

「ああ、くれぐれも細心の注意を」

「「了解」」

そう言うと、二人は会議室を後とする。

「さて・・・では私も向かおう。後のことは『闇師』・・・いや、エミリヤ、お前に任せる」

「はい・・・兄上もどうぞお気をつけて・・・」

そう言うと、『闇師』は『影』を見つめる。

心なしか・・・いや、誰がどう見ても頬が紅潮し瞳を潤ませている。

「ねえねえ、『水師』母さん」

「何?『光師』?」

「兄ちゃんと『闇師』の姉ちゃんって兄妹なんだよね??」

「ええそうよ」

「なんか恋人同士のような空気に見えるんだけど・・・」

「かもしれないわね。本当仲が良いから二人とも」

くすくす笑うが何か違うような気もしていた。

「では後は任せる」

その声と共に足元の影が瞬く間に侵食し『影』はその名の通り自らの影に沈んで行った。







「あそこだな・・・」

「ああ」

一足速く『闇千年城』を出立した『風師』・『炎師』の二人はアルトルージュの『千年城』を見下ろせる丘に立っていた。

「それじゃあ行くか・・ど派手にな」

「ああ、何時でも準備は良いぞ」

「久方ぶりに・・・暴れようぜ!!相棒」

「ああ!!」

次の瞬間、『風師』は風に包まれ・・・いや、自らの体内から風が吹き上がり、その風に溶け込むように姿を消し、『炎師』は突如体が燃え上がったかと思いきや、その炎は灰すら残さず燃え尽きた。







同時刻、日本冬木においては・・・

「ここだな・・・」

柳洞寺地下大空洞に静かに魔力をたたえ開放の時を待つ大聖杯において一人の男が姿を現した。

いや、正確には光苔におぼろげに浮かび上がる影から浮き上がるように現れた。

その男・・・『影』は静かに大聖杯の魔法陣に近寄る。

その間、大聖杯から浮かび上がる『この世全ての悪(アンリ・マユ)』の影が襲い掛かる。

まだ生み出されていないにも関わらず眼の前の存在は極めて危険であると認識したようだ。

しかし、どの影も当たらない。

いや、もっと正確に言えば『影』に近寄る影は全て形を失いただの影に還って行く。

そして、魔法陣の存在する高台に上り立つ。

「ほう・・・なるほど・・・素晴らしい・・・これだけあれば陛下の魔力を全て満たせられる」

満足げに肯く。

彼は主君の総魔力の十分の一でもこの魔法陣に存在すれば充分と思ったのだが、実際に確認してみれば予想を遥かに超える量の魔力がこの魔法陣に蓄えられている。

「・・・ふむ、なるほど『根源の道』に繋がっているか・・・それならこれだけの魔力量も肯ける・・・む??魔力の他に何か魂も眠っているか・・・それに・・・なにかに繋がっている??・・・だが支障は無い。まずは繋がりを切り落として、まとめて陛下の元に送り届けるか・・・」

そう呟くと静かに手を振り上げる。

影が急速に盛り上がり巨獣の姿を形作る。

その姿形は例えるなら狼辺りだろうか?

それは静かに魔法陣に首を突っ込み、何も無い空間を噛む。

だが、それで大聖杯は『根源』から切り離され、更には現界されるはずの聖杯とも繋がりを絶たれた。

「・・・より、食らえ。そして影を通じて陛下に魔力を」

その号令を受けて影の巨獣は肉でも食らうように魔法陣から湧き上がる魔力を食らい始める。

「この量であれば一日か長くても二日あれば全て済むな」

そう呟く。

「だが、万が一と言う事もある・・・少し守りは固めておくか・・・」

そう呟くと意識を内面に集結させる。

「影状固定(シャドー・ロック)」

同時に何かが蠢き、気配が『影』の周囲に集まる。

「よし・・我らの望みを妨げる者を・・・殺せ」

気配は霧散して消えていった。







『六王権』側近衆『炎師』・『風師』によるアルトルージュ・ブリュンスタッドの『千年城』強襲・・・そして、同時進行で行われる最高側近『影』の『大聖杯』略奪の二方向同時進行作戦『クリスマス』・・・これが事実上、『蒼黒戦争』において『六王権』軍が人類側に向けて放った第一の矢となった。

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